顎矯正手術に後遺症はある?リスク・合併症・しびれ・後戻りを専門医が解説【前編】
「顎矯正手術に後遺症はありますか?」
「下唇のしびれが残ることがあると聞いて不安です。」
「大きな出血や感染が起こることはありませんか?」
顎矯正手術を検討されている患者さんから、このような質問をいただくことは少なくありません。
インターネットやSNSで手術について調べると、「後遺症」「しびれ」「失敗」といった言葉が目に入り、不安になってしまう方もいらっしゃると思います。
顎矯正手術は、全身麻酔を行い、顎の骨を切って適切な位置へ移動させる手術です。前回の記事でもお話ししたように、決して小さな手術ではありません。
そのため、リスクや合併症がまったくない手術ではありません。
一方で、術後に起こる腫れや一時的なしびれなど、治癒の過程で比較的よくみられる症状まで、すべてを「後遺症」と考える必要もありません。
私は、患者さんが安心して治療を受けるためには、「大丈夫です」と説明するだけではなく、どのようなことが起こる可能性があるのかを治療前に正しく知っていただくことが大切だと考えています。
今回は、顎矯正手術のリスクや合併症について、まず前編として、術後によくみられる症状、しびれ、出血、感染を中心にお話しします。
まず知っておきたい「術後症状」「合併症」「後遺症」の違い
これらは同じような意味で使われることがありますが、少し分けて考えると理解しやすくなります。
例えば、顎矯正手術の後には、顔の腫れや痛み、口の開けにくさなどがみられます。
これらは多くの場合、手術後の治癒過程で起こる一時的な術後症状です。
一方、出血や感染、神経障害など、手術に伴って起こる可能性のある問題を合併症と呼びます。
そして、その症状が治療後も長期間残った場合に、一般的に後遺症という言葉が使われます。
つまり、
「手術後に症状がある=後遺症が残った」
ということではありません。
特に顎矯正手術では、時間の経過とともに改善していく症状が少なくありません。
顎矯正手術後の「腫れ」はどのくらい続く?
顎矯正手術後には、ほとんどの患者さんに顔の腫れがみられます。
これは手術に対する身体の正常な反応です。
個人差はありますが、一般的には術後2〜3日頃に腫れが最も強くなり、その後徐々に軽くなっていきます。
大きな腫れは2〜3週間程度でかなり落ち着きますが、完全に自然な状態になるまでには、さらに時間がかかることがあります。
特に上下顎の手術では、頬や口唇周囲が大きく腫れることがあります。
初めて鏡を見た患者さんが、
「こんなに腫れて大丈夫でしょうか?」
と驚かれることもあります。
しかし、多くの場合は予想される術後経過の範囲内です。
大切なのは、単に「腫れているかどうか」ではなく、左右差が急に大きくなっていないか、出血や感染などを疑う変化がないかを確認しながら経過をみることです。
痛みはどのくらいありますか?
「顎の骨を切る」と聞くと、非常に強い痛みを想像される方も多いと思います。
しかし、実際に手術を受けた患者さんからは、
「思っていたより痛みは強くなかった」
と言われることが少なくありません。
もちろん、痛みの感じ方には個人差があります。
術後は痛み止めを使用し、必要に応じて薬の種類や使用方法を調整しながら痛みをコントロールします。
むしろ患者さんによっては、痛みそのものよりも、
「顔が腫れている」
「口が開けにくい」
「食事がしづらい」
「鼻が詰まっている」
といった症状の方をつらく感じることがあります。
これらも多くは術後の回復とともに改善していきます。
上顎の手術後には鼻づまりが起こることがあります
上顎の手術(Le Fort I型骨切り術)では、上顎の骨を移動させるため、鼻の周囲にも腫れが生じます。
また、手術後には鼻腔内に血液や分泌物がたまり、一時的に鼻が通りにくくなることがあります。
そのため、
「鼻呼吸がしにくい」
「鼻が詰まって眠りにくい」
と感じる方もいらっしゃいます。
通常は腫れが軽減するにつれて改善していきますが、術後早期は無理に強く鼻をかまないなど、手術部位に負担をかけないことも大切です。
顎矯正手術で最も質問が多い「しびれ」
顎矯正手術の合併症について説明するとき、患者さんから最も多く質問されるものの一つが、しびれです。
特に下顎の手術では、下唇やオトガイ(あご先)の感覚に変化が生じることがあります。
「触っていることは分かるけれど感覚が鈍い」
「麻酔が残っているような感じがする」
「ピリピリする」
など、感じ方は患者さんによってさまざまです。
なぜ下唇やあご先がしびれるの?
下顎の骨の中には、下歯槽神経という神経が通っています。
この神経は下の歯だけでなく、下唇やオトガイ周囲の感覚にも関係しています。
下顎の手術(下顎枝矢状分割術)などのでは、この神経の近くで骨を分割する必要があります。
手術では神経をできる限り保護しながら操作しますが、神経を直接切断していなくても、骨を分割した際の刺激や圧迫、術後の腫れなどによって、一時的に神経の働きが低下することがあります。
その結果として、術後に下唇やオトガイ周囲の知覚が鈍くなることがあります。
しびれは一生残るのでしょうか?
ここは、患者さんが最も心配されるところだと思います。
術後早期にみられる知覚の低下は、時間の経過とともに改善していくことが少なくありません。
神経の回復には時間がかかるため、数週間で改善を感じる方もいれば、数か月かけて少しずつ感覚が戻ってくる方もいます。
一方で、すべての患者さんで完全に術前と同じ感覚に戻るとは限りません。
程度の差はありますが、知覚の鈍さや違和感が長期間残る可能性もあります。
また、単に「感覚が鈍い」という症状だけではなく、
- ピリピリする
- 触れたときの感じ方が以前と違う
- 左右で感覚が違う
- 冷たい、熱いなどの感じ方が変わる
といった知覚異常として感じることもあります。
だからこそ私は、術前の説明で「しびれは必ず治ります」とお伝えすることはありません。
リスクを必要以上に怖がる必要はありませんが、長く残る可能性も含めて理解したうえで手術を受けることが大切だと考えています。
しびれのリスクはすべての患者さんで同じではありません
神経症状が起こる可能性は、患者さんによって異なります。
例えば、
- 下顎管の走行位置
- 顎の骨の厚みや形態
- 下顎を移動させる方向や距離
- 年齢
- 手術方法
など、さまざまな要因が関係します。
そのため、術前にCTなどを用いて顎の骨と神経の走行を確認することは非常に重要です。
当院でも、手術計画を立てる際には、単に「顎を何mm動かすか」だけではなく、骨の形態や神経の位置を三次元的に確認しながら手術方法を検討しています。
出血のリスクはありますか?
顎の骨の周囲には多くの血管があるため、顎矯正手術では一定量の出血を伴います。多くの場合は手術中に止血しながら安全に手術を進めることができますが、まれに予想以上の出血が起こる可能性があります。
そのため、手術前には血液検査などを行い、
- 貧血がないか
- 血液が固まりにくい状態ではないか
- 出血に影響する薬を使用していないか
- 全身状態に問題がないか
などを確認します。
また、術後に創内で出血が続くこともあるため、入院中は顔の腫れや口腔内の出血、全身状態などを確認しながら経過をみていきます。
輸血が必要になることはありますか?
これも患者さんからよくいただく質問です。
顎矯正手術では、術式や手術範囲、患者さんの状態によって出血量が異なります。
輸血を必要としないケースがほとんどですが、大量出血が起きた場合には、安全のために輸血が必要になる可能性があります。
手術前には、どのような手術を行うのか、予想される出血量や全身状態などを踏まえて、必要な準備を行います。
「可能性が低いから説明しない」のではなく、可能性のあることを事前に共有しておくことも、安全な医療の一部だと考えています。
感染することはありますか?
顎矯正手術は多くの場合、口の中から手術を行います。
口の中にはもともと多くの細菌が存在しているため、術後感染の可能性を完全にゼロにすることはできません。
感染すると、
- 腫れがなかなか引かない
- 一度改善した腫れが再び強くなる
- 痛みが増える
- 発熱する
- 傷口から膿が出る
といった症状がみられることがあります。
感染を予防するためには、手術中の清潔操作だけでなく、術後の抗菌薬投与や口腔内を清潔に保つことも重要です。
手術前の口腔環境も大切です
顎矯正手術では、手術そのものだけでなく、手術前に口の中をできるだけ良い状態にしておくことも重要です。
虫歯や歯周病がある場合には、状態によっては手術前に治療が必要になります。
また、矯正装置が付いていると歯磨きが難しくなるため、普段以上に丁寧な口腔ケアが必要です。
手術前から歯科衛生士による口腔衛生指導を受け、清潔な状態を保つことは、術後感染のリスクを低減するためにも大切です。
「リスクがある」ことと「危険な手術」は同じではありません
ここまで読むと、
「やはり顎矯正手術は怖い手術なのでは?」
と感じる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、ここで大切なのは、リスクが存在することと、手術そのものが危険であることを同じ意味で考えないことです。
どのような手術にも一定のリスクがあります。
重要なのは、
どのようなリスクがあるのかを事前に把握すること。
そして、
そのリスクをできるだけ小さくするための診断・手術計画・術後管理を行うこと。
だと私は考えています。
私は20年以上、顎変形症の患者さんを診療してきましたが、患者さんが手術前に不安を感じるのは当然のことだと思っています。
だからこそ、
「大丈夫ですから心配しないでください」だけで終わらせるのではなく、
「何が起こる可能性があり、その場合にはどう対応するのか」
まで理解していただくことが、安心して治療を受けるためには大切です。
前編のまとめ|「後遺症」という言葉だけで怖がらないことが大切です
顎矯正手術には、一定のリスクや合併症があります。
しかし、術後に起こるすべての症状が「後遺症」ではありません。
腫れ、痛み、口の開けにくさ、鼻づまりなどは、多くの場合、術後の治癒過程でみられる一時的な症状です。
一方で、
- 下唇やオトガイの知覚低下・知覚異常
- 出血
- 感染
などは、顎矯正手術を受けるうえで知っておくべきリスクです。
特に下顎手術後のしびれについては、多くの場合で時間とともに改善が期待できますが、症状が長期間残る可能性があることも含めて理解しておく必要があります。
大切なのは、「後遺症が怖いから手術を受けない」「大丈夫と言われたから何も心配しなくてよい」という二者択一で考えることではありません。
メリットとリスクの両方を正しく理解したうえで、自分にとって治療を受ける意味があるのかを考えること。
それが、顎変形症治療においてとても大切なことだと思います。
こんにちは。横浜歯科口腔外科クリニック院長の高原楠旻(たかはら なみあき)です。 ■略歴 ■所属学会記事監修 横浜歯科口腔外科クリニック 院長 高原 楠旻

私はこれまで20年以上にわたり顎変形症の診療に携わり、多くの患者さんの顎矯正手術を担当してきました。
このブログでは、顎変形症について専門医の立場から、できるだけ分かりやすくお伝えしています。